交換戯曲
阿部慎一郎×サカイリユリカ×初瀬川幸次郎

  • 登場人物は『3人以内』
  • 1ツイート内で台詞とト書きを執筆し相手に渡す
  • 1ツイートの制限時間は『5分程度』
  • 相手への返信の形で続きを執筆する
  • 合計『30ツイート』で終了
  • 作:阿部慎一郎(レティクル座)、サカイリユリカ(戯曲本舗)、初瀬川幸次郎
  • 執筆日:2021年5月15日
  • タイトル:黒子(道岡様より提供)
  • 場所:宇宙ステーション(尾崎太祐様より提供)
  • 時間:夕暮れ(ササキタツオ@朝活脚本家様より提供)
阿部慎一郎

ドッカーン!!

男「何だ!? この音は!?」
女「……ドステニア号酸素供給エリアに隕石の衝突を確認!」
男「そんなバカな、」
女「艦長! 宇宙ステーション内の酸素が外に漏洩してます!」
男「黒子は!? 黒子は無事か!?」

サカイリユリカ

女「点呼を取ります!」 男「おう!」 女「黒子1! 黒子2! 黒子3! ヒゲ黒子! ツケ黒子! 隠れ黒子! 出ておいで!!!」

女、でんでん太鼓を鳴らしながら、走り回る。

男「キミ!何をしているのだね! 夜になったら黒子は見えなくなっちゃうんだぞ!?」

初瀬川幸次郎

女「見えなくなっても黒子は黒子です!」
男「そんなことよりもあと二時間以内に到着しないと」
女「そんなこととはなんですか。そんなこととは!」
男「世界の、宇宙の危機が迫ってるんだぞ」
女「わたしにとって宇宙とは黒子です」

阿部慎一郎

女、でんでん太鼓を鳴らす。

女「黒子~、どこに行ったの?恐くないから出ておいでぇ……」
男「(窓の外を見て)アレを見ろ!外に黒子が!」
女「暗くて何も見えないわ」
男「機体の損傷した部分は見えるだろ?」
女「えぇ」
男「隕石が空けた穴を黒子が塞いでる」

サカイリユリカ

女「本当だわ!」
男「見ろ、アレは何だ?」

男女が窓の外を見ると、大きな黒子から長い長い毛のようなものが1本生えていて、宇宙を泳いでいる。

女「あれは……まさか、我々を導いてくださる黒子の神・・・」

女、その毛を拝み始める。
すると、どこかから声が聞こえ始める。

初瀬川幸次郎

髪「宇宙を汚すのは誰だ」
女「あなたは神ですか?」
髪「そう、わたしは髪だ」
女「わたしたち急いでいるのでどいて貰えますか」
髪「宇宙を汚す存在は滅亡しなければならない」
男「わたしたちが何をしたというのだ」
髪「貴様は先程黒子を愚弄したな!」

毛先からビームを発する髪。

阿部慎一郎

ビュイーン!!
髪のビームが女の心臓を貫いた。

女「がはぁ」
男「貴様ぁああ!」
髪「人間が俺たちにした仕打ちに比べればこんなもの安いものさ」
男「ぶっ殺す!」
女「艦長……、待って」
男「(女の胸を見てびっくりして)黒子が……、胸の穴を塞いでる。」

サカイリユリカ

女「命拾いしたわ」
髪「お前は……まさか、黒子ニンゲンか!?」
男「黒子ニンゲン?」
髪「そう。我らと人間のキメラ、罪の存在、それが黒子人間なのだ……ああ、まさかこんなところにいたとは」
女「……」
男「君、どういうことなんだ?」
女「艦長、すみません、私、実は……」

初瀬川幸次郎

女「黒子神拳の使い手なんです」
男「黒子神拳、まさかあの伝説の」
女「そう、世界を救うと言われていたり言われていなかったりする、あの」
男「そうか、君がこの船に乗った理由がようやく分かった」
女「全ては運命だったのね」
髪「そう、全ては運命」

阿部慎一郎

女「ここに髭は必要無いわ! 1本残らず剃り落とす!」
髭「やれるものならやってみろ! 髭ビーム!」

女、髭ビームを胸の黒子で吸収する。

髭「バっバカな!」
女「言ったでしょ。黒子は宇宙って……。永久脱毛!」
髭「うわぁあ!」
男「God is dead……神は死んだ」

サカイリユリカ

女「これで邪魔者は消えた」
男「はあ、なんか疲れた」
女「そういえば、他の乗組員の声がさっきから全然しませんね」
男「そう言われてみれば」

その時、突如荘厳な鐘の音が空間に響き渡る。

女「あら、もうこんな時間」
男「そろそろ食事にしようか。僕取ってくるよ。水クラゲでいい?」

初瀬川幸次郎

女「また水クラゲですか」
男「好きなんだから仕方ないじゃない」
女「嫌ですよ」
男「水クラゲのどこが嫌いなんだよ」
女「名前です」
男「じゃあいいだろ」
女「嫌です」
男「水クラゲを笑う者は水クラゲに泣くぞ」
女「構いません」
男「じゃあいいや」

阿部慎一郎

女、でんでん太鼓鳴らす。

女「黒子~」
男「やっぱ水クラゲ食えよ」
女「嫌よ」
男「最後の晩餐になるかもしれないんだよ」
女「なら、もっと美味しいものが食べたいわ」
男「贅沢言うな」

沈黙

男「あと2時間か……」
女「黒子を探しましょう」

サカイリユリカ

男「この広い宇宙の中でか?」
女「ええ」
男「そこに愛はあるのか?」
女「愛?」
男「黒子への愛だ」
女「黒子を探す任務に私的感情を挟まないで」

男、黙って隊服を脱ぎだす。

女「そんなところに黒子が!」
男「この黒子を使って、他の黒子たちを探すのさ」

初瀬川幸次郎

男、黒子を指で優しく撫で回す。
恍惚の表情を浮かべる男。

気のせいだろうか、遠い所から優しい音楽が聞こえてくる。

なんだろうこの気持ちは。
母の胎内いた時のような。

指の動きと外からの音が混じり合い、ひとつの調べとなる。
これはまるで黒子によるオーケストラじゃないか。

阿部慎一郎

●♫●・*:..。●♫●*゚¨゚゚・*:..。●

男「こんな気持ち初めてだ!」

●♫●・*:..。●♫●*゚¨゚゚・*:..。●

男は目を覚ました。
宇宙船の外を見ると、ビニール袋にたくさんの黒子を詰め込んだ女が手を振っている。

女「黒子は集めた! これで願いが叶うわ!」

サカイリユリカ

男「君の願いは何だい?」
女「それは・・この宇宙を守ること。私たちの使命」
男「ファイナルアンサー?」
女「ふざけないでください」
男「僕は知っている、君がその黒子で叶えたい真の願いを……」
女「フ、そんな脅し、効くと思って?」
男「おや、これを見てもそう言えるかな?」

初瀬川幸次郎

男、カツラを取ると、つむじに大きな黒子。
その真ん中に長い髪の毛が一本。

髪「やあ」
女「貴様、生きていたのか!」
髪「うん」
女「黙れ!」

女、髪をむしり取る。

髪「ぎゃあああああ!」

阿部慎一郎

男の頭からまた1本の髪が生える。

髪「私は何度でも蘇る。神だからな」
女「艦長を返せ!」

女、男の髪を抜くと更にまた1本の毛が。

髪「言っただろ」
女「クソっ!」
髪「この男は私のものだ」
女「(抜くのを諦めて)……ねぇ、教えて、私が黒子で叶えたい真の願いは何なの?」

サカイリユリカ

髪「♪ほーくろほくろ、なにみて跳ねる、十五夜おーつきさまぁ見てはぁーねーるぅ」
女「そ、その歌は・・!」

窓の外に大きな月が輝き始める。

男「我々には時間がない」
女「月はいやぁああ!」
髪「お前は、餅をつくウサギになるか、ウサギにつかれる餅になるか、その二択なんだ!」

初瀬川幸次郎

女「黙れ!」

女、髪を何度も何度もむしり取る。

髪「ぎゃあああああ」
男「だが平気!」
女「ちきしょう!」
男「さあ、早く月に」
女「嫌だ嫌だ!」

男、女のでんでん太鼓を奪う。

髪「お前が人柱にならないと世界が救われないのだ!」

阿部慎一郎

女「私が自身が黒子に……宇宙と同化することで世界が救われる」
髪「そうだ。それが黒子人間であり、黒子神拳使いである君の使命だ」
女「……あと、10分」
髪「世界の滅亡までもうすぐだ!」

サカイリユリカ

男、でんでん太鼓を鳴らしながら謎の舞を舞う。
ものすごい音を立てながら何かが宇宙空間を飛んでくる。

女「あれは……ブラックホール?いや、黒子!?」
髪「黒子は……黒かった」
男「ニキビは……白かった」
女「ニキビ!?」

反対方向から、ホワイトホールが宇宙船に近づいてくる。

初瀬川幸次郎

髪「黒と白が交わるまでの間に決断するのだ!」
男「自らを犠牲にして宇宙を救えるのか」
女「どうしてわたしなの?」
髪「たまたまだ」

月が近づいてくる。

男「さあ行くんだ。全裸で月に降り立ち、祈るがいい!」

阿部慎一郎

髪「世界の滅亡まであと30秒……」
女「私たちは髪の言うとおり、月に降り立った」
男「そこで白と黒が交わり、」
女「世界は一つになったのだ」
髪「そして1年後! 2人は海の地平線を眺めていた!」

サカイリユリカ

女「ほら見て、あなたの好きな水クラゲよ」
男「おいしそう」
女「ほら、あーん」
男「あーん」

海の向こうから何かがやってくる。

女「ん?」
男「あれは……海坊主……いや、まさか……黒子!?」
髪「愛、覚えていますか」

初瀬川幸次郎

女「覚えていません」
男「帰れ」
髪「えー」
女「とりあえず頭だけ出して貰っていていいかな」
髪「なんで」
女「夕暮れみたいに見えるし」
髪「夕暮れみたいに見えたらなんなんだよ」
男「少なくとも三人の人間が助かるんだよ」

阿部慎一郎

女「夕暮れね」
男「夕暮れだ」
髪「夕暮れさ」
女「夕暮れなの?」
男「夕暮れだろ」
髪「夕暮れに決まってるだろ」
女「どういうこと?」

サカイリユリカ

髪「とりあえず私はカミだ。ふぉくろから生まれたキャミだ……あ、噛み噛みだよもう。おほん。かつて、私は太陽の黒子だった。ほら、太陽に黒点が見えるだろう?あれが私の祖先だよ。だが今、人間たちは黒子の大切さを忘れてしまった。嗚呼。」

髪、海から上陸しようとする。

初瀬川幸次郎

女「黒子のことを改めて考えることが出来たね」
男「そうだね、黒子は大事だね」

髪、嬉しそうに頷く。

女「だからね、あなたは上陸しなくていいよ」
男「うん、帰っていいよ」
髪「えー」

女と男、髪をグイグイと海に押し戻す。

髪「えー」