交換戯曲
アシタリュウタロウ×初瀬川幸次郎
  • 登場人物は『3人以内』
  • 1ツイート内で台詞とト書きを執筆し相手に渡す
  • 1ツイートの制限時間は『5分程度』
  • 相手への返信の形で続きを執筆する
  • 合計『30ツイート』で終了
  • 作:アシタリュウタロウ(風土の端のスクルット)、初瀬川幸次郎
  • 執筆日:2021年3月27日
  • タイトル:花火(ハヤシケンジ様よりご提供)
  • 場所:故障したタイムマシン内(玉川裕士様よりご提供)
  • 時間:ある人が死ぬ5分前(sachiko seiriki様よりご提供)
初瀬川

タイムマシンの中。
1人の女性を囲んで2人の男性が座っている。

男1「もうすぐだから」
女「うん」
男2「もうすぐで未来の病院に着くから」

アシタ

女「ねぇ……何? さっきの音…」
男2「音?」
女「えぇ」
男1「……なんでもないよ」
男2「なんだろ? ……大丈夫だよな」
男1「……」
男2「……おい」

初瀬川

女「頭が痛い」
男1「もうすぐだから」
女「この音なに」
男2「本当。ちょっと見てくる」

立ち上がり、部屋を出る男2。

女「わたしね……」

アシタ

女、タイムマシンの窓の外を見る。

女「わたし自分が死ぬときは、老衰だと思ってった、なんとなく。自分が死ぬイメージなんて、陳腐なイメージしかできないのね。交通事故とか、飛び降り自殺とか、そんな劇的な死、なんてイメージできなかった」
男2「……タイムマシンの中で何言ってんだよ」

初瀬川

女「ごめんね。なんか自分らしくないけどさ、最後だと思うとちゃんと話しておかないといけないって思ったから」
男1「もう少しで病院に着くから」

部屋に飛び込んでくる男2。

男2「おい、まずい」
男1「なんだよ!」
男2「エンジンルームで……」

アシタ

タイムマシン全体が異音を発する。

3人「!?……」

間。

男2「……エンジンがオーバーフロー起こして、ルーム全体が潰れそうだ」
女「わたしはいいから二人とも逃げて」
男1「だめだ!」

初瀬川

女「でもこのままじゃ」
男1「とにかく急げ」
男2「これ以上スピード上げたら」
男1「どっちにしてもこれじゃ」
女「あ、窓の外見て!」

アシタ

窓には多次元宇宙が混ざり、様々な時間が入り乱れる。
三人が出会った時間。
男1と女が共に関係を育んだ時間。
男2が女の病気を知った時間。
男1が女のためにタイムマシンを奪った時間。
女が不知の病で帰らぬ人となった時間。
男達がタイムパラドックスで消失する時間。

3人「うわぁぁぁぁぁぁ!」

初瀬川

男1は神社の入り口に立っている。
女が浴衣を着て現れる。

女「ごめんね、ちょっと遅刻」
男1「全然大丈夫」
女「今日あいつは?」
男1「あ、今日は来れないって」
女「ふうん」
男1「あともう少しで花火始まるって」

アシタ

男1「少し回ってく?」
女「うん。……ひとが多いね」
男1「うん」
女「はぐれたらそこのたこ焼き屋を目印にしよう」
男1「手」
女「ん?」
男1「繋げばいいじゃん」
女「やだよ。はずかしい」
男1「えー」
女「誰が見てるかわかんないし」
男1「えー」

初瀬川

川の方から花火が上がる。
周りの人々からどよめきが上がる。
上がる花火を見ている女。

男1「もっと近くでさ」

男1、女の手を引っ張る。

女「ちょっとちょっと」
男1「これからもっと凄いの上がるからさ」

走る二人。
スピードが上がるに伴い、景色が歪んでいく。

アシタ

男1「これからもっと凄いの上がるからさ」
女「ちょっとちょっと」
男2『ぁぁぁ……おい! おい! 待ってくれ!』

走る3人。

男1「これからもっと凄いの上がるからさ」
男2『あれ!?いつだここ!?』
女「ちょっとちょっと」
男2『……ぁ』

周りの人々からどよめきが上がる。

初瀬川

花火の音がどんどん大きくなる。

男2、学校の前に立っている。
制服姿の女が現れる。

女「ごめんね、ちょっと遅刻」
男2「全然大丈夫」
女「今日あいつは?」
男2「あ、今日は来れないって」
女「ふうん」
男2「あともう少しで花火始まるって」

アシタ

女「あー。こんな状況じゃなかったらなぁ」
男2「……」
女「きっと屋台とかいっぱい出てさ、もっと人がいっぱい集まってさ、そしたら可愛い浴衣着て、たこ焼き食べながら花火見れたかもしれなにのにね」
男2「そうだね」
女「高校最後の花火なのになぁ」
男2「……ねぇ、考えてくれた?」

初瀬川

女「うん」
男2「どうかな」
女「うん……」

沈黙が続く。

男2「あいつ?」
女「うん」
男2「そうか」
女「うん」

大量の打ち上げ花火が上がり始める。

男2「行こうか」
女「うん」

女、歩き始める。
男2、手を差し出そうとするがやめて、横を一緒に歩く。

アシタ

花火の音がどんどん大きくなる。

病院のロビー。
誰か、と歩いていたような男2がやってくる。
待合席で俯いている男1。

男2「……あれっ」
男1「……おぉ」

沈黙、に耐えきれず男2が横に座る

男1「……なんでだよ」
男2「うん?」
男1「なんであいつなんだよ」
男2「……うん」

初瀬川

男1「お前さ」
男2「ん」
男1「あいつ好きだったの?」
男2「なんだよこんな時に」
男1「こんな時だからだよ」
男2「お前は」
男1「好きだよ」
男2「そうか」
男1「うん」

個室から看護師の呼ぶ声がする。

アシタ

看護師の呼ぶ声がどんどん大きくなる。

タイムマシンの中。
1人の女性を囲んで2人の男性が座っている。

男1「もうすぐだから」
女「うん」
男2「もうすぐで病院に着くから」
男1「未来の病院なら絶対治るから」
女「ねぇ……何? さっきの音……」
男2「音?」
女「えぇ」
男1「……なんでもないよ」

初瀬川

女「もういいから」
男1「大丈夫着くから」
女「分かってるから」
男1「何が」
女「もう大丈夫だから、ね」

女、男2に賛同を求める。

男2「もう無理だよ」
男1「何がだよ」
女「未来も過去もないよ。わたしはどこにも行かないし行けない」

アシタ

タイムマシン全体が異音を発する。

女「だから、おいてって。私をおいて明日に向かって。私の死は、あなたの終わりじゃないでしょ? 私の死は、あなたの明日の一部なの」
男1「……タイムマシンの中で何言ってんだよ」

初瀬川

女「そんなこともう言わないで」
男1「だからもう」
女「もう大丈夫だから、わたしを引き摺らないで」
男2「ここは病院だって、分かってるだろ」
女「ごめん、頭が……」
男1「うるさいか。見てこようか」
男2「音なんかしてないから」

アシタ

無音。

男1『……あれ……いつだここ……』

女「ごめん。そろそろ眠るね」
男2「そっか。ごめん……じゃあ、また明日」
女「そんな毎日気を遣わなくていいんだよ」
男2「そんなんじゃないよ」

男1『あぁ……だめだ……いくな……』

初瀬川

行こうとする男2、その手を引っ張る女。

男2「ん」
女「いつもありがとう、本当に」
男2「いいよ」
女「前の話さ」
男2「前の?」
女「高校の時の」
男2「ああ」
女「ごめんね」
男2「なんだよそれ(苦笑)」
女「こんな状態でなんだけどさ」
男2「うん」
女「いやでも、ずるいよね今更」

アシタ

沈黙。

男2「……じゃあ、行くわ」
女「あっ、うん」
男2「……手」
女「うん」
男2「冷たい」
女「うん。あったかい」
男2「うん」

男1『いくな…離すな…』

女、手を離す。
男2、離れた手を一瞬追うが、踏みとどまる。

男2「じゃぁ」
女「うん」

初瀬川

女、男2を見送る。
壁の向こうから男1が現れる。

男1「あいつはさ、ここぞって時に奥手なんだよ」
女「そうだね」
男1「そろそろ自分は必要ないかな」
女「もう少し居てよ」
男1「お前の方こそ、引き摺られるなよ」

アシタ

窓の外に花火。
外の人々からどよめきが上がる。

男1「あともう少しで花火終わるって」
女「あーっ。こんな状況じゃなかったらなぁ」
男1「……手」
女「ん?」
男1「繋げばいいじゃん、最後くらい」
女「やだよ。はずかしい」
男1「えー」
女「繋がなくたって、お互いわかってるんだから」

初瀬川

男1「いいから」

男1、女の手を掴む。

女「いつも強引だね」
男1「あいつもこのくらい積極的だといいんだけどね」
女「あの頃は楽しかったな」
男1「俺の時間は止まっちゃったし、お前もそろそろ」
女「そうだね」
男1「タイムマシンがあったらさ、3人のあの頃にさ」
女「そうだね」

アシタ

窓の外から閃光が差し込む。
花火の音が大きくドンと鳴る。

暗転。

徐々に明るくなる。
そこには、故障したタイムマシン。

男2「……あれ。……いつだここ?」

初瀬川

男1、歩いてくる。

男1「おう、早いな」

沈黙。

男1「ん、どうしたよ」
男2「……お、おう」
男1「もしや楽しみだったか?」
男2「アホか」

女、小走りで現れる。

女「ごめんね、ちょっと遅刻」
男1「早く花火行こうぜ」

女、男1と2の手を繋ぐ。

女「いこいこ」

アシタ

花火の音が鳴る。

女「あっ。ねぇ見て」
男1「おぉ」
女「きれー」
男2「……」

女、男1、花火を見上げる。
男2、ふたりを見る。

女「(気がついて)ん?どうしたの」
男2「ううん。楽しいなって」

男2、今を目に焼き付けている。
花火の音が大きくドンと鳴る。

男1「たーまやー」